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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)2261号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人袴田重司、同国分丸治の上告趣意第一点について。

論旨中判例違反をいう点は、所論引用の当裁判所の判例は、事案を異にし本件に適切でないばかりでなく、原判決は何等これと相反する判断をしていないから、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

次に、論旨中法令違反をいう点について考えて見るに、いわゆる匿名供出とは、主要食糧たる米麦等の生産者が、食糧管理法三条一項の規定により定められた数量を超えてその生産した米麦等を政府に売り渡す(供出)にあたり、先ず指定代表者に委託し、指定代表者は、委託者の住所、氏名をあらわさないで、委託者の生産した米麦等を政府に売り渡すことをいうものである。されば、本件のように、共謀の上供出米の検査に際し俵から刺とられたいわゆる「刺米」を恰かも生産者から売渡を委託された米であるかのように装い政府に対し売渡を申し込み、食糧検査官の検査を求め、同検査官はその旨誤信して支払証票を発行し、該証票に基き代金の支払を請求し、係員を誤信せしめた結果預金として口座に代金を振り込ませて財産上の利益を得た場合には、詐欺罪の構成すること論を俟たない。あるいは、いわゆる刺米は、政府の所有米であるから、これを政府に匿名供出することは、横領罪を構成するものであって、供出の結果政府から代金を取得しても、それはいわゆる事後処分であって、横領罪のほか別に詐欺罪を成立せしめるものではないというかも知れない。しかし、いわゆる匿名供出による米麦等の売渡の場合は、特別多額な超過供出報奨代金(本件では普通供米価格の三倍)を支払われるものであって、匿名供出は、この特別の利益を目的とするものであるから本件のように他人の所有米を匿名供出する行為が、仮りに一面において横領罪を構成することあるとしても、他面において詐欺罪を成立せしめること明らかであるといわなければならない。されば横領罪としての起訴のない本件匿名供出における所論摘示の原判決の判示は、正当であって、所論のごとき匿名供出に関する法令を誤解した違法は認められない。従って、所論法令違反の主張は、刑訴四一一条一号の職権事由としても採用し難い。

同第二点について。

論旨は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、本件につき同四一一条一号、三号を適用すべきものとは認められない。

よって、刑訴四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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